【続3】「私は港区に住めない」教育格差に絶望。港区女子になれなかった女の隠された本音は…
「港区女子」。それは何かと世間の好奇心を煽る存在。
彼女たちは一体どんな女性なのか? そんな議論が度々上がるけれど、港区で暗躍する素人美女、パパ活女子、あるいはラウンジ嬢など……「港区女子」の意味合いや捉え方は人それぞれ。
そして謎に包まれた彼女たちにも時間は平等、歳をとる。港区女子たちは、一体どんな着地をしているのだろうか。現在アラフォーとなっていると思しき元港区女子たちの過去と現在に迫る。
※この物語は実際の出来事を元にしたフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません
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【続2】「いつまで港区女子なの?」インスタの優雅な姿に心がザワつく…共働きで疲弊するワーママがSNSを見てしまう理由
蘇る港区女子への引け目
当日、茜は美羽をベビーカーに乗せて麻布十番に到着した。我が家には車がないため、朝美が乗せていってくれるというのだ。
煌びやかなタワーマンションのエントランスに、ベンツの四駆がとまっている。朝美の娘たちはK-POPアイドルのようなおしゃれな服を着て、ディズニーキャラクターのグッズを持っていた。現地で合流した由利親子も、ミニーを意識した赤い水玉のリンクコーデをしている。私は少し圧倒されつつも、久しぶりのディズニーランドを楽しもうと努めた。
キャラクターと写真を撮り、レストランも人気のアトラクションもショーも優先的に回れるツアー特典もある。子供にとっては天国のような時間だ。
まだ1歳の美羽は最初は人見知りをしてグズったりしたけれど、子どもたちは皆小さな美羽を可愛がってくれ、しばらくすると緊張がほぐれ笑顔を見せるようになった。
そんな子どもたちの可愛らしい様子を微笑ましく思いながらも、一方で私は、かつて感じた胸のざらつきを思い出し始めていた。
美羽が楽しそうにするほど、胸が切なく軋むのだ。
経済格差、教育格差
朝美の娘が有名な英語塾で覚えたという流暢な英語でキャストと話している。それを見て、由利はすかさず英語塾の情報を聞き出しスマホに入力する。
バレエに通う由利の娘はたびたび可愛いダンスを披露し、来月には発表会があるという。芸能人の子どもたちが多く在籍するスクールだそうで、由利と応援に駆けつける朝美は、子どもよりも保護者を見るのを密かに楽しみにしているという。
彼女たちの育児話を聞くほど、私は自分がそんな環境に遠く及ばないことを痛感させられた。美羽が成長しても、習い事をさせる時間的余裕もない気がする。
今この瞬間は間違いなく楽しいし、十分に楽しめているはず。なのに、心がどんどん冷えていく。それを実感したとき、私は懐かしさを覚えた。
そうだ。私は西麻布でこうして2人を眺めていた女子大生時代から、ほぼ20年が経っても、何も変わっていないのだ。
「すべて間違えた」
ディズニーランドの帰り道、朝美が私の自宅まで送ってくれるというのを遠慮し、麻布十番でベンツを降りた。ここから大江戸線に乗り自宅のある中野方面に向かうのは面倒だが、一刻もはやくこの惨めさから脱出したかった。
トランクからせっせと荷物を下ろしていると、朝美の次女が無邪気に言った。
「ねー、茜ちゃんはママと仲良しなのに、どうして遠くに住んでるのー?」
母親似の美しい顔と、能天気な思考。その瞬間、私の中で何かが弾けた。
「それはね、生き方と結婚相手を間違えたからだよ。だから私は港区に住めないの」
無意識に唸るような低い声が出た。
朝美の次女は「そっかあ」とすぐに気を逸らしたが、背筋に冷たい汗が伝いわずかに手が震える。まるで蓄積していた鬱憤が噴き出したようだ。これが私の本音なのだろうか。
私が死ぬほど仕事を頑張ったところで、きっと朝美の生活レベルを手にすることはない。年下の顔のいい夫を自慢に思ったところで、美羽に朝美の娘たちと同等の経験や教育を受けさせることはできない。
一体いつになったら、私はこの港区女子たちから自由になれるのだろう。
「本当に楽しかったね。ねえ、今度はみんなで子連れハワイでも行きたいね」
「そうだね〜」
「また計画しようね」
私の心中などつゆ知らず、笑顔を絶やさず新たに面倒な課題を投げる朝美。彼女から逃げるように、私は急いで駅へと向かう。
すっかり熟睡してしまった美羽を乗せたベビーカーを押し、ドクドクとうるさい鼓動がはやく収まることを願った。
とにかく今は、何も考えたくない。
私は大江戸線ホームのある地下に潜るためのエレベーターを探し、ぼんやりと駅を彷徨った。
ーFINー
取材/山本理沙 イラスト/黒猫まな子
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