父が残した借金8000万円を返済するために起業。経営とは「その人のために何かしたい」と思われる人になること
働く女性は増えましたが、それでも女性社長はいまだに全体の10%にも満たないのが日本の現状です。そこで今回は、今注目の女性リーダーにお話を伺いました。すると意外なことに、トップへの道筋は野心や夢がもたらした果実ではなく、目の前の仕事に誠実に取り組んだ先にあった、と語ってくれたのです。
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岩本初恵さん 63歳・福岡県在住
株式会社愛しとーと 代表取締役兼CEO

経営とは「その人のために何かしたい」
と思われる人になることなんです
と思われる人になることなんです
岩本初恵さんは、健康食品やコスメ、インナーなどを扱う通信販売会社を経営しています。福岡に来たのは29歳のとき。「父は保証人を引き受け、8千万円の借金を残して他界しました。返済するには起業しかないと決め、離婚して、子どもと母を連れて唐津から出てきました」。
漁師だった父から、初恵さんはたくさんのことを学んだと言います。「『海の中に健康が詰まっている、魚は刺身で食べなさい』と言っていました。でも、私は生魚が苦手で。なら、魚のコラーゲンをゼリーにできないかと思いつき、何百件もの工場や大学に相談しました。ですが、当時はできるところがありませんでした。同じころ、足が悪かった父が、足を冷やさないようにと言っていたことを思い出し、温かく、はくだけでマッサージ効果がある着圧ストッキングを開発。こちらはひと月で商品化でき、販売を始めました」。
すると、看護師さんからむくみが軽減した、動脈瘤にいいと評判が広まり、爆発的にヒット。その資金でゼリーの開発を続け、2年後にスティック状のコラーゲンゼリーを商品化しました。「当時は訪問販売が主流でしたが、子どもをそばに置いて仕事ができるよう、チラシを配って電話受注する方式をとりました。通販の先駆けです」。
その後も、マイナスイオンのインナーなど次々とヒット商品を開発し、年商100億円の企業に成長しました。「起業したころは女性経営者は珍しく、冷たく扱われることもありました。また、寝ないで働いて体調を崩したり、自律神経失調症もありました。それだけに、社員の健康を守りたい、子育てを手伝いたいという思いは強いんです。それで、社屋を建てたときには最初にキッズルームを作り、子どものそばで働ける環境を整えました。また、社員がカップ麺やパンを食べているのが心配で、無料で健康的なお昼ご飯が食べられる社員食堂も作りました。社員が困ったときは、会社に頼れるようにしよう、会社が診療所のようでありたいと願ってやってきました。そして、助けられた分は、私にではなく、お客様にお返ししてと伝えています」。
初恵さんは、経営に加え、地域のボランティア、テレビやラジオ出演など多忙を極め、7年前に一度娘婿に社長を交代しました。ところがその後、業績が悪化。立て直しのため2年前に会社に復帰しました。「このときは苦しかった。でも、ようやく業績も回復しました。お金でも人でも、商品でも、経営していれば困った問題は起こるもの。そんなときこそ、人や時代のせいにせず、楽しんでクリアしたいのです。父は『悪魔は苦労している人を見て喜ぶ』と言っていました。こちらが楽しそうなら、悪魔はつまらながって逃げていくんですよ」。

「父の説く『長屋経営』を実践。経営は、指導でなく、その人のために何かしたいと思われる人になること。助け合って共に豊かになること」。
<編集後記>社員からも地元の人からも「はっちゃん」と慕われています
インスタからTikTok、VoicyまでSNSを自分で運営。「はっちゃん!」と呼ばれると「はいよー」と答える人生相談が大人気。収益はすべて寄付しており、総額はなんと6,000万円!公私共にたくさんの社会貢献活動を行い、紺綬褒章も受章しています。現在は、食物、看護、福祉科がある杉森高校の理事長に就任し再建に取り組んでいるそう。人に尽くす姿に感動しました。(ライター 秋元恵美)
撮影/BOCO 取材/秋元恵美 ※情報は2025年4月号掲載時のものです。
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